MLM失敗体験談第二話。棺桶に片足を入れた時
僕がハマったのは、「話」じゃなくて「空気」のほうだった
正直に言うと、もう最初のオープニング曲の段階で、心を持っていかれていました。
「うわ、この曲めっちゃイイじゃん」って思ったんです。
音楽と照明、拍手の一体感。まるでライブか舞台の幕開けのような雰囲気。
承認欲求が人生でMAX値だった僕には、たまらなくカッコよく、最高の雰囲気だった。
開始数分で、僕はもう観客として、参加してよかったと心から思いましたね。
そして当然ですが、最初に持っていた「これ、怪しいやつかも…」という不安は、どんどん溶けていきました。
なにより、その場にいた人たちが、**みんな普通に“イイ人”**だったんです。
だから、疑う理由が見つからなかった。
詐欺の匂いが、空気の明るさでかき消されていく
明るくて元気な空間って、それだけで疑念を打ち消す力があるんですよね。
僕が想像していた“詐欺のイメージ”って、もっとこう、暗くて、威圧的で、押し売りっぽくて──
そんな感じだったんです。
でも、実際は全然違いました。
みんな笑顔で、親切で、会話も自然。
「うわ、これ絶対やばいやつだな」って思わせる要素が、まるでなかった。
今思えば、この“安心できる空気感”こそが最大の仕掛けだったのかもしれません。
でも、この時点での僕には、そんなこと思いもしませんでした。
僕はボッチだった。だから、あたたかさに救われた
そもそも僕は、このセミナーに一人で参加していたんです。
タイ・バンコク郊外の会場に、知り合いもなし。
まわりはグループで来ている人や、紹介者に連れられてきた人ばかり。
日本人もほとんどいない。
孤独で、不安で、ちょっと気後れしていた僕にとって、
その場の空気はまぶしすぎるほど明るかった。
そんなとき、たまたま隣に座っていたタイ人のお母さんと話すようになりました。
きっかけは、ただ席を譲っただけだったんですけど、
彼女はとても気さくに話しかけてくれて、なんだか救われたような気持ちになったのを覚えています。
“仕掛け”も”加害者”も、どこにも見当たらなかった
「これ全部、仕組まれてたんじゃないの?」
あとになって、そう言われることもありました。
でも当時の僕は、むしろ“仕掛け感”を探してすらいたんです。
「この人たち、全員グルなんじゃないか?」
「どこかにうまい誘導があるんじゃ?」
そんなふうに周囲を警戒しながら見ても、なにも出てこない。
タイ人のお母さんは「よかったら友達にも会ってみない?」と僕を誘ってくれて、
彼女の仲間たち──先に始めていた“センパイ”たちのところへ連れていってくれました。
でも驚いたのは、彼女たちと僕は、MLMの組織上はまったく無関係だということ。
つまり、僕を勧誘しても彼女たちには何のメリットもないんです。
それでも、みんなすごくあたたかく迎えてくれて。
その中の一人の女性は、僕にたくさん質問をしてくれました。
「どうしてここに来たの?」
「なんで始めようと思ったの?」
僕は、誰にも話せなかった不安や愚痴を、思わずその場で話していました。
彼女は、ただ黙って聞いてくれました。
勧誘もしない。ただ、最後まで聞いてくれた。
その姿勢に、僕は**“無償の愛”のようなものを感じてしまった**んです。
嬉しかった。あたたかかった。
僕の心のなかの“何か”が、確実にほぐれていくのを感じていました。
見てください。この集まりを。(※当時の写真)
この写真に写っている人たち。
実は──日本人は僕だけなんです。笑
でも、まったく孤独ではありませんでした。
むしろこのとき、人生で初めて“世界に受け入れてもらえた”気がしたんです。
承認欲求がパンパンに膨れ上がっていた当時の僕が、
これで感動しないわけがありませんでした。
たぶん、この中に僕を騙そうとしていた人はいなかったと思います。
いや、そう信じたかったんだと思います。
僕なりに、いろんな会社で、いろんなタイプの人と仕事をしてきました。
だから、ヘタな嘘やダイコン芝居には割と敏感なつもりだった。
この場にいる人たちは、“そういう人たち”ではなかったという確信はありました。
じゃあ──これから、僕はどうする?
お金払って始めて良かった、ここに来れて。
その選択が、破滅への第一歩になるなんて、
このときの僕には、まだ知る由もありませんでした。
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